自己責任

・・・・人をまわりの者や自然とつなげている「親切」を、人の心の中から追い出して行くために、灰色は、言葉をつくるのが上手い手下たちを使って、一つの言葉をつくり上げました。


それは、「自己責任」という言葉でした。
「自己責任」という言葉を心に叩きこまれると、人は苦しんでいる人を見かけても、「あそこに苦しんでいる人がいるが、あれは自己責任で、私が感じる必要はない苦しみだ」と思うようでした。


そして、「自己責任」という言葉は、苦しんでいる人の方にも、「自分の苦しみは自己責任で、他の人が感じとらないのは、当たり前なのだ」と思わせる効果があるよいうなのでした。


ということは、「自己責任」という考え方を人の心に叩きこむことによって、まるで除草剤を撒くように、雑草のように生えてくる「親切」という行いを、根絶やしにすることができるはずでした。


けれど、人は、長いあいだ、貧しい人や、死者や、動物たちの痛みを感じとって、親切をして、生きてきたのでした。


その親切を失って、人がどう生きていくかは、「自己責任」という言葉をつくった手下たちにもわかりませんでした。……


小沢健二「うさぎ!」より